書籍のフリー化と電子ブックリーダーの可能性 〜『生命保険のカラクリ』を「フリー」で読んでみた 〜

生命保険のカラクリ (文春新書)』のPDFファイルが、無料でダウンロードできるのでダウンロードして読んでみた。

本の内容については、「死差益」、「逆ざや」と言う単語が分からない人(特に若い人)にはお勧め。週刊誌等がときどき書いている生保の批判の記事をよく読む人は知っている事がほとんど。
(自分自身としては、昔の貯蓄型の保険はお得だったんだと驚いた。社会人になりたての頃、ニッセイのおばちゃんに、払い込んだ金額よりも少ない金額しか戻ってこない貯蓄プランを勧められて、からかわれいるのかと不思議に思った事がある。)

ここからは、この本をフリー(無料)で公開する事について考えてみる。

この本のフリーは著者の立場だと、『フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略』で説明されている「直接的内部相互補助」のパターンである。
要は、商品に関する読み物(自社製品を使った料理のレシピ)を無料で配っても、自社製品を買ってもらえるなら、それで良いというと言う戦略である。

出版社には、無償公開は良くない結果をもたらす可能性がある。

無料でダウンロードして目次を読んだ段階で感じた事に、「この本の著者は、ネット販売の生保の副社長だった。既存の生保を批判してネット販売の利点を書くのは当然だな。こういう本を、お金を払って購入するのは変だよな。」という思いがある。

ネットでの無料情報と出版社の本との最大の違いは、出版社がその本の内容をある程度は保証している点にある。自分としては多分、この本がライフネット生命のホームページからダウンロードできるだけだったらダウンロードしてなかったと思う。

こういう事に人々が気づいてしまうと、「この本は、ちょうちん記事ならぬ、ちょうちん出版物ではないか?」と疑ってから、今後は購入しないといけなくなる。本の中で「われらがライフネット生命」とかの記述を見てしまうと、どうしても疑ってしまう。

もっとひどくなると、この本は著者からお金をもらって出版している本ではないかとの疑いまででてしまう。そうなると、出版社が持っていたネットの無料情報に対する最大の優位性が失われる危険がある。

そう考えると、この本は一部のみの無償公開にして、無料公開はあくまで本を売るための手段であって、ネット販売の生命保険の広告ではないと印象付けておくべきだったと思う。

本のフリーについてはここまでにして、ここからは、PDFファイルをタブレットPC(正確にはタブレット機能付きのモバイルPC)で全文を読んでみた感想を。

iPadが発表されてから、電子出版への期待が高まっている。電子出版はどうなるかわからないけど、iPadは日本では売れないと思う。

あの重さとサイズは失敗である。うちの妻は、私がハードカバーの小説を買ってくると嫌な顔をして、「なぜ、文庫版が出るまで待てないの? 重たくて私が読めないじゃないの。」と言ってくるぐらいである。日本の女性にはiPadの重さは絶対に許されないと思う。

Appleのデモ映像では、ひざの上に乗せて使っている。これは、かっこいいからではなく、その姿勢でないと使えないからだと思う。iPadと同程度の重量のPCを使っていたけど、姿勢は同じ。

本は寝そべって読む自分としては、これはつらかった。通勤中の読書にも使えないと思う。(座席に座れれば大丈夫だけど...)

サイズも大きすぎると思う。本のサイズは文庫版かバイブルサイズが理想的ではないかと思う。アメリカでは、新聞を電子ブックリーダーで読みたいと言う需要があるからあのサイズみたいだけど、紙の古い習慣を引きずっているだけだと思う。

文字そのものの見易さは、問題なかった。新書をWVGAの解像度(1024×600)で読む分には解像度は問題ないようだ。A4サイズのマニュアルのPDFファイルをモニタで読むと、明朝体の字が特に読みにくくつらいので、いつも印刷して読んでいた。新書サイズの場合はそういう事はないようだ。

文庫版サイズで、軽くて、XGA程度の解像度の電子ブックリーダーなら結構売れるのではないかと思う。ただし、読みたい本が少しは安く買えるようになっていないといけないが...
日本のメーカーはこの安く買えるという部分を実現できないだろう。これは、Appleでないと出来ない気がする。