一次資料にあたる事の大切さ

トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして

トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして

  • 作者: 大野 耐一
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 1978/05
  • メディア: 単行本

を読んだ。

すごい本である。何が凄いって、発行が1978年なのに本屋でたまに平積みされている所が凄い。発行後の刷りの数が100刷り近い本と言うだけでも、大した物なのに、30年近く経つのにビジネス書籍のところで平積みされている。

何故なのかは、読めばすぐに納得である。書いてある内容が全然古びていないのである。と言うよりも、内容に世間の企業は未だに追い付いていないと思う。読んでいると、今年書かれた本なのではないかと錯覚しそうになってしまう。(センスの悪い経済誌記者なら、現状の把握をさせたら、大野さんが書いている事とまったく同じ事を書きそう)

特に、最近の本だと錯覚しそうになったのは、

  • 「低成長」への対応。

    低成長という事をメディアが本気で書き出したのはバブル崩壊後だと思う。
  • 「小量多品種生産」への対応。

    世の中が意識したのはバブルの頃ぐらいからだと思う。セル生産方式だとかで他社が本格的に対応しだしたのはここ2,3年。
  • 情報システムのあり方

    これについて、ちゃんとした哲学を持っている企業はないと思う。コンサルティングやIT企業に翻弄されている会社がほとんどだ。
が書かれているところである。

読んで思ったのは、やっぱりトヨタ生産方式を作った本人の本は、他のトヨタ生産方式の本とはレベルが違う。

例えば、「かんばん」の使い方の注意点である。「社内のつくり方を変えずに、外注部品の引き取りだけに『かんばん』を使うと、『かんばん』はたちまち凶器に変わってしまい」(P. 60)とある。この注意点は他の本には見られない。「流れるようにつくるやり方(注1)を自分のものにしておかないと、いざ『かんばん方式』をやる段になっても、すぐにはできない。」と注意している。

ムダの排除についても、「もっとも大きなムダは過剰在庫によるもの」(P. 97)と順序づけている。他の本や解説は、7つのムダとして、他のムダと同じレベルで扱う事が多い。多分、トヨタ出身者ではなく、ちゃんと理解していないコンサルティングは、おかしな助言をしてしまうだろう。

また、トヨタの指導の恐さ、厳しさを伝えるものとして、不良品を出した現場の責任者に「丸を書いてそこにたっているように」と、命令される点をあげている記事などが多い。

これは、全くの誤解である。大野さんは、豊田佐吉の「お婆さんが機を織るのを終日立ちつくして見ていたこと、機の動く調子がだんだんとわかってきたこと、そして、それを見れば見るほどおもしろくなってくること」の態度に感動した(P. 142)とある。現場の責任者は、現地で良く見て観察する事が面白くなければいけないと考えていた事は、他では知る事ができない。

この本を、ちゃんと読めていない経済誌記者がトヨタの記事を書いている間は、世間にはトヨタの本当の強さの理由は理解されないし、トヨタに追い付き、追い越す事はできないと思う。

トヨタの車自体にはあまり魅力を感じないし、期間工の制度は嫌いなので、トヨタの天下みたいな風潮は長くは続いて欲しくはないのだが...

(注1)フォードに代表される世間考える流れ作業と、トヨタの考える流れ作業は違う事を、4章で書いてある所も、またこの本を読むべき理由である。