NHKスペシャル「自動車革命」第一回を見た

NHKスペシャル「自動車革命」は、久しぶりに、すごい番組だった。インドの衝撃以来だ。

トヨタの姿が、イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)イノベーションへの解 収益ある成長に向けて (Harvard business school press)に描かれる既存企業と同じように見える。

電気自動車は、充電のインフラがないのが欠点だが、部品点数が、ガソリン車の1/3程度の1万点の単純な構造なので、中国の町工場でも作れると言うのだ(詳細は第二回の放送なので、楽しみだ)。こうなると、電気自動車はトヨタにとっては、破壊的技術になるかもしれない。

破壊的な技術に見える理由の一つ目は、トヨタは、現在のガソリン車の市場へ電気自動車の技術の押し込みをしてしまっている事である。プラグインハイブリッドを作ってしまっているのがその証拠である。

それに対して、中国などの発展途上国の町工場が、充電は自宅のみとして近距離の日帰りの用途にしか使えないと割り切って、軽自動車よりも魅力的な価格で売り始めたら、普及の可能性が出てくる。

一家の2台目の車(軽自動車の場合が多いと思う)は、1日に数十キロも走らないだろうし、泊りがけで出かける事もないと思う。そういう意味では、軽自動車の走行可能距離は過剰性能になっている可能性が高い。

電気自動車の電気代は、途轍もなく安い。(ガソリンスタンドが充電のビジネスをする魅力がない程だ。) それに加えて本体価格も安ければ、軽自動車の置き換えとして普及する可能性がある。(さらに構造が単純であれば、車検の費用も安くなる可能性が高い。)

こうやって、その町工場がマーケットに足がかりを作ってしまえば、後は一回の充電での航続距離を伸ばしていくだけで、ガソリン車に勝てるようになる。一回の充電で、一日で走れる距離をまかなえるようになれば、後はホテルで充電すればいいようになってしまうのではないだろうか。

トヨタには、残念ながらこの戦術は使えない。トヨタは、もはや大衆車では全然利益を出せない体質になってしまっているからだ。上に書いたような低価格車で利益を出すことは出来ないだろう。だから、トヨタの価値観で見ると、この戦略は価値がない。

2つ目の破壊的技術と言える理由は、途上国でも電気自動車を作れるようになると、組立業者間の競争の激化で自動車を組み立てる会社には利益が残らないようになるからだ。パソコンの例がいい例だ。電気自動車での心臓部を作る「インテル」になった会社にしか利益は残らないようになるだろう。

この点は、トヨタもかなり危機感を持っているような放送だった。

でも、いずれこの戦略を使った電気自動車メーカーが性能を向上させて、ガソリン車に対抗できるようになってくると、トヨタは価格の問題で太刀打ちできないだろう。

まさに、教科書どおりの動きだ。

ところで、トヨタにとっては未来の脅威だろうが、ダイハツにとっては明日の脅威ではなかろうか。ダイハツは、何をしているのだろう。エコカー減税対策で手一杯なんだろうか...